ドクター江部の糖尿病徒然日記より転載
こんにちは
糖尿病学会への提言です。
2007年と2011年の国際糖尿病連合(IDF)「食後血糖値の管理に関するガイドライン」により、食後高血糖が、がんや動脈硬化や糖尿病合併症を始めとして、様々な疾患のリスクとなることが明確となりました。
またCGMの普及により、酸化ストレスを最も生じるのは
①平均血糖変動幅の増大
②食後高血糖
③空腹時血糖値
という順番であることが明確となってきました。
酸化ストレスは、動脈硬化や老化やがん、パーキンソン病やアルツハイマー病や認知症にも深く関わっています。
糖尿病があると心筋梗塞・脳梗塞・がん・アルツハイマー病・認知症が増加することにはエビデンスがありますが、この酸化ストレスがおおいに関与していると考えられています。
勿論、糖尿病腎症、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害などの糖尿病慢性合併症にも酸化ストレスは関与しています。
現在、糖尿病専門医の間では、
「平均血糖変動幅の増大と食後高血糖が最も酸化ストレスを増大させる」
というのが、一番旬の話題です。
CGMのデータを用いて、講演される糖尿病専門医の多くが、この話題で話されます。
そこで必ず出てくるのが、「DPP-4阻害剤」や「GLP-1アナログ製剤」が、平均血糖変動幅の増大と食後高血糖を改善させるといったデータです。
このデータ改善も、
「薬なしだと食後血糖値が平均320mgとなるが、DPP-4阻害剤を投与すると、平均260mgくらいとなって、統計的に有意差がある。」
といったレベルの話です。
統計的には有意差があるかもしれませんが、臨床的には、200mg/dlを超えるような食後高血糖は、酸化ストレスを生じるのでリスク回避は困難です。
スーパー糖質制限食だと、多くの症例で食後血糖値が200mgを超えることはほとんどなくなり、酸化ストレスリスクが明白に改善します。
一般内科医は兎も角として、糖尿病専門医は知識として上述のCGMのデータのことと、糖質制限食のことを勉強して理解する義務があると思います。
その上で、糖質制限食を批判するなら、根拠を示すべきだと思います。
さらに糖尿病専門医は糖尿病患者さんに対して、以下の説明義務があると思います。
1)カロリー制限食(高糖質食)は1969年の食品交換表(改訂第2版)以降、
日本で、糖尿病患者さんに推奨してきた唯一の食事療法で、長い臨床経験がある。
しかし、長期的安全性や有効性に関しては、エビデンスはない。
そして血糖値を上げるのは糖質だけなので、カロリー制限食は、短期的には、平均血糖変動幅の増大と食後高血 糖を生じる可能性が極めて高い。
2)糖質制限食は、日本では1999年以降の新しい食事療法であり、臨床経験はまだ短い。
糖質制限食にも、長期的安全性と有効性のエビデンスはない。
一方、短期的には平均血糖変動幅の増大と食後高血糖を生じない、唯一の食事療法である。
3)平均血糖変動幅の増大と食後高血糖が酸化ストレスのリスクとなることにはエビデンスがある。
4)酸化ストレスは、動脈硬化や老化やがん、パーキンソン病やアルツハイマー病や認知症にも深く関わっている。
1)2)3)4)を糖尿病患者さんにきっちり説明したうえで、あなたはどちらを選択しますかというスタンスが必要だと思います。
少なくとも説明して選択肢を与えることなく、糖尿病専門医が一方的にカロリー制限食を患者さんに押しつけることは、倫理的に問題があります。
一方的にカロリー制限食を糖尿病患者さんに押しつけて、毎日、平均血糖変動幅の増大と食後高血糖を起こして、
将来合併症が発症して、失明や透析となった場合は、当該の糖尿病専門医はどのように責任をとるおつもりなのでしょうか。
江部康二