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 「骸骨(がいこつ)ビルの庭」(上・下) 宮本輝

 「骸骨(がいこつ)ビルの庭」(上・下) 宮本輝
 小説の舞台は1994年の大阪・十三(じゅうそう)にある通称「骸骨ビル」。主人公の八木沢省三郎(1947年生まれ)は50歳を前に大手家電メーカーの営業マンを辞め、不動産会社に再就職した。そして、解体の決まった「骸骨ビル」から住人たちを速やかに立ち退きさせるべく、管理人として東京から大阪に赴任。作品は、この八木沢の3カ月余にわたる日記という設定になっている。

 「骸骨ビル」では、復員兵の阿部轍正(てつまさ)とその友人の茂木泰造が戦後、29人の戦災孤児たちを無償で育てた。ところが阿部は、孤児だった桐田夏美から性的な暴行を受けたと訴えられ、マスコミの標的とされたままに死んでしまった。茂木と元孤児たちの何人かは、「骸骨ビル」に住み続け、阿部の汚名を晴らしたいと考えている。真相を求めて、八木沢は夏美の行方を追う。元孤児たちは、食堂の女主人、運送屋、業界紙の発行者、おかまバーの美人ホステス、私立探偵、SM雑誌の編集者、彫金師、ダッチワイフ(女性代用人形)製作会社の社員と様々。一方、八木沢はビルにもう一度畑を甦らせようと一人耕し始める。そして、小さな命が蕾をつけるとき、骸骨ビルの本当の意味が明らかになる。

宮本はこの作品で、とてつもない何かを描こうとしている。
彼が描きたかったのは、人間の生命のど真ん中の何かなのではないか。
宮本輝という作家の奥の深さ。その作品の奥の奥にある輝き。しかして平易な文章。
読んでる最中は生命が揺さぶられる。読了後は打ちのめされた気分。
私にとっては大傑作だ。
ただ者ではない作家のただごとならぬ作品に、また出会えたことに感謝する。

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