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「にぎやかな天地」(宮本輝)

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主人公船木聖司は、謎めいた老人・松葉伊志郎の依頼で、豪華限定本の編集・製作を仕事にしている。松葉から「日本の発酵食品を後世に残すための本」の依頼をされる。日本各地を取材するうちに、聖司は微生物のもたらす発酵という偉大な営みに魅せられていく。
発酵食品の取材を進める一方、死に際に祖母がつぶやいた「ヒコイチ」という言葉の謎や、過失で自分の父親を殺してしまった男の消息を、聖司は知ることになる。そして、愛してはならない二人の女性との出会いが生まれる。

宮本輝の作品を読むたびに「こいつはただ者じゃない」という思いにかられる。
この人は何か物凄い、途轍もないものを小説で書こうとしてるのだ。
しかし文章は平易で読みやすい。読み終えるのが惜しくなる。

冒頭の一行。
「死というものは、生のひとつの形なのだ。この宇宙に死はひとつもない。」

微生物による発酵という極小の生命の営み。宇宙という極大の生命。
船木聖司を巡る人間模様を通して、生命の不思議なからくりを宮本は書きたかったのだと思う。
人間の持つ宿命や業。そして幸福になる方途。
勇気とは何か。勇気を出した人間には何がもたらされるのか。

読み終えた時には、「よし、俺もがんばって勇気を出して生きてみよう」と思えるはずだ。
人間の、いや生命の持つ可能性と大きな力を感じさせてくれる、希有な小説である。

自信を持って言える。これは「絶対に読むべき一冊」だ。
by minami18th | 2005-10-23 19:55 | 砂に足跡