「浪子のハンカチ -明治大正名作異聞-」(戸板康二)

角川書店の「野性時代」に76年から78年にかけて掲載された作品の短編集である。
当時私は「野性時代」を毎月買っていたので、すべてリアルタイムで読んでいる。
中でも「『坊ちゃん』の教訓」を読んだときの衝撃は今も忘れられない。
最後の一行、最後の一節で、それまでの世界がひっくり返された。
ミステリ作家というのは凄いのだと思い知らされてしまった。

久々に読んでみたいと思ったが、絶版で書店にもブックオフにも無い。
ネット古書店で見つけて注文。期せずして初版本が来てしまった。

下の青字の文はこの本の紹介をしたものだが、書いたやつの能力を疑ってしまう。
明治大正の文学作品八編を選び、そのパロディを試みたもの、ということなのだが同時に立派なミステリになっているあたりの凄さがひしひしと感じられる。

これらの作品のどこがパロディなのだ。明治大正期の名作と呼ばれる日本文学を下地とした、堂々たるミステリではないか。恥ずかしげも無くこんな文を書いたやつは、「立派なミステリになっているあたりの凄さ」を本当にわかってはいないのだろう。
かくいう私も、元ネタの作品は「坊ちゃん」と「痴人の愛」くらいしかまともに読んではいないので、偉そうなことは言えないのだが。

以下は各作品の元ネタとあらすじ。

「浪子のハンカチ」(徳富蘆花「不如帰」)
女子大生武田久子の祖母は「不如帰」のモデルとなった女性と友人関係にあったという。久子はそのモデルを卒論テーマにしようと考えた。 

「酒井妙子のリボン」(泉鏡花「婦系図」)
日本通の外国人によるイベントで演じられた「婦系図」。彼らの食事会でその女優を招いて「婦系図」における疑問について推理が凝らされる。 


「『坊ちゃん』の教訓」(夏目漱石「坊ちゃん」)
人間心理と容貌との関係性を研究した教え子が、松山で教鞭を取ることになる。そこには「坊ちゃん」さながらの特徴ある教師たちがいた。 

「お玉の家にいた女」(森鴎外「雁」)
「雁」の演出に悩む劇作家が「雁」に登場する女中のモデルと知り合いだったという女性のところに話を聞きに行く。 

「お宮の松」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
熱海の名所「お宮の松」。かつて熱海で旅館を営んでいた祖父が自殺した原因を調べていた青年は、観光地での広告競争が根底にあったのでは、と疑った。 

「テーブル稽古」(菊池寛「父帰る」)
「父帰る」を演ずることになった劇団。あまり目立つことのない母親役の心理状態について、演ずることになった女性が深く考える。 

「大学祭の美登利」(樋口一葉「たけくらべ」)
大学で文学を教える教授に目に留まった女子学生が一人。彼女は大学祭で「たけくらべ」に登場する美登利に扮することになった。 

「モデル考」(谷崎潤一郎「痴人の愛」)
出版社の編集部長に憧れる吉江とも子。しかしその部長、「痴人の愛」のナオミのモデルだと自称するバーのマダムといい仲らしい。 
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